所が三更(さんこう)も過ぎた時分、突然茶室の外(そと)の庭に、何か人の組み合うらしい物音が聞えるではございませんか? わたしの心に閃(ひらめ)いたのは、勿論(もちろん)甚内の身の上でございます。もしや捕(と)り手(て)でもかかったのではないか?――わたしは咄嗟(とっさ)にこう思いましたから、庭に向いた障子(しょうじ)を明けるが早いか、行燈(あんどん)の火を掲(かか)げて見ました。雪の深い茶室の前には、大明竹(だいみんちく)の垂れ伏したあたりに、誰か二人掴(つか)み合っている――と思うとその一人は、飛びかかる相手を突き放したなり、庭木の陰(かげ)をくぐるように、たちまち塀の方へ逃げ出しました。雪のはだれる音、塀に攀(よ)じ登る音、――それぎりひっそりしてしまったのは、もうどこか塀(へい)の外へ、無事に落ち延びたのでございましょう。が、突き放された相手の一人は、格別跡を追おうともせず、体の雪を払いながら、静かにわたしの前へ歩み寄りました。
