「どうかわたしを使って下さい。わたしはどんな場合にも、きっとあなたを離れません。あなたのためには水火にも入ります。あの『えそぽ』の話の獅子王(ししおう)さえ、鼠(ねずみ)に救われるではありませんか? わたしはその鼠になります。わたしは、――」
「黙れ。甚内は貴様なぞの恩は受けぬ。」
甚内はわたしを振り放すと、もう一度そこへ蹴倒しました。
「白癩(びゃくらい)めが! 親孝行でもしろ!」
わたしは二度目に蹴倒された時、急に口惜(くや)しさがこみ上げて来ました。
「よし! きっと恩になるな!」
しかし甚内は見返りもせず、さっさと雪路(ゆきみち)を急いで行きます。いつかさし始めた月の光に網代(あじろ)の笠(かさ)を仄(ほの)めかせながら、......それぎりわたしは二年の間(あいだ)、ずっと甚内を見ずにいるのです。
